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フリー写真素材ぱくたそ |
「ぼくも、ホームランをうちたい」
プロ野球選手のホームランを見て、少年
はそう言った。
初めての打席は「見逃し三振」
打席で何も出来なかった。
「なんでバットを振らないの?」と周囲
から言われ、頬を涙が伝った。
‘打席ではバットを振らなきゃ当たらない’
この事を覚えた。
「見逃し三振」のあの日から、まずは一日
50スイングを目標に素振りした。
バッティングティーと呼ばれる野球道具で
ボールにバットを当てる練習を繰り返した。
バットにボールではなくボールにバット
を当てる事から始めた。
静止したティーボールにまずはバットを
当てる。止まっているのに当たらない。
「ボールを良く見て。」と声をかける。
何度も何度もボールにバットを当てる。
静止したボールにバットが当たるように
なれば、次は動いたボールを当てる。
ボールにバットを当てるから
バットにボールを当てるへ
下からトスしたボールを当てるだけ。
「ボールを良く見れば当たるよ。」
止ったボールも動いたボールだろうとも、
少年にかける言葉は全く一緒
とにかくボールを良く見る。
バットにボールが当たるようになってから
自信も持って立った打席
自信を持ってフルスイング
見事な「空振り三振」
周囲からは「ナイススイング」の声
見逃し三振から空振り三振へ
見事な成長を見せたが、それでも
少年の頬を涙が伝った。
もっとバットを振らなければダメだ
一日50スイングの目標を100に
変えた。
すると体に変化が現れた。
手の皮がむけた。これ以上振ると
痛いといい休む日もあった。
それでもバットを振り続けた。
そして更に自信をつけ立った打席
初めてバットにボールが当たった。
ファールチップだったけどバットに
当たった。
バットに当たるようになったボールが
後ろではなく前にも飛ぶようになった。
そして打ったボールが内野を転がり
内野ゴロを打てるようになった。
「バットを振り切れば内野の間を抜け
ていく打球を打てるようになるぞ。」
という言葉を信じて更にバットを振り
続けた。
そうして、ようやく生まれた初ヒット!
初めて打席に立ってから半年が経過
していた。
今度は外野までダイレクトで飛ばしたい
バットの長さも初めて買ってもらった
68センチのバットから2センチ長いバット
に変えた。
外野フライも打てるようになった。
しかし外野の頭を越える事はなかった。
スイングの鋭いチームメイトが
一日300スイングの素振りをしている
と聞き、1日100スイングから300に
変えた。
手のひらの事は何も言わなくなった。
このころからスイングスピードを上げる
事とバットを出す位置・タイミングも気に
するようになってきた。
それでも打てないホームラン
チームメイトが毎日3キロのランニングを
して足腰を鍛えていると聞き、走る事を
日課に加えた。
バットに振り回されたいた頃に比べ、
今では自信を持ってバットを振れる様
になった。
昔使っていた68センチのバットを久しぶり
に握ってスイングをしたら
「僕はこんなにも軽いバットを振っていた
のか?」という事に気付いた。
そうして自信を持って立った打席
まさに打った瞬間入ったなという
会心の一撃だった。
人生初のホームラン
ここまでにかかった1248日間
小学生がホームランと聞いて
「どうせランニングホームランでしょ?」
とほとんどの人がそう言う。
しかし紛れもなくノーバウンドで届いた
ホームラン!!
確かに野球場ではなく小学校の校庭で
行われる学童野球でしょ?とほとんどの
人は言うかもしれない。
しかし
それでも
その少年には確かな自信がついた。
その野球少年が試合後、興奮気味に
僕にこう言った。
「パパ、ぼくはホウムラン
(ホームラン)うつって
いったでしょ!」
周りからどんなにダメだと思われようと
本人は絶対に打つと思い続けた結果
結果が出るまで信じて続ける事を
その少年から、またひとつ教わった
ような気がした。
そんなホームランを打った野球少年に、
もしひとつだけアドバイス出来るなら
「ホームランを打つには
ストライクにボールを投げてくれた
投手のおかげだと言う事を忘れては
ならない」
という事ぐらいしか言えない。

