コーチを一瞬で変えた、難聴の野球少年のある一言

フリー写真素材ぱくたそ
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「パパ、だいじょうぶだよ。

　ぼくはいいっぱい

　たくさんがんばるから。」

その言葉を背中越しに聴いたコーチは、

ミットを思いっきり叩き、

「パシーン!」


と、そこらじゅうに響き渡るほどの大き
な音を鳴らした。

思い起こせば、十数年前

大学病院の医者から告げられた、
産まれたばかりの我が子への

「先天性難聴」


という言葉。





どうやって育てれば良いか？
私は知らなかった。

親としては普通に育って欲しかった。

普通に…？
そう私が言ってる普通ってなんだろう？

障害者の我が子を‘普通に’って言ってる
自分自身こそ、障害者に対して世間への
疎外感を生んでいるのではないかと自問
自答する日々を過ごした。

ただ親のそんな悩みとは関係なく、子供は
成長していった。


とにかくしゃべり方が下手でも“自分の心”
自分の気持ちだけは周囲の人に伝える
事が出来る人間になって欲しい。

その一心で子供を育てる事にした。



舌足らずなしゃべり方で、上手く言葉が
言えてない事だけが気になり、
「ちゃんと言いなさい。」

と言いたくなる事がたくさんあった。





‘しゃべり方’ばかりを注意して、自分から
言葉を発する事に躊躇し、

‘人と話す事を恐れる人間’

にだけはしたくなかった。




聴覚障害者の我が子の、この舌足らずな
話し方も個性なんだと自分に言い聞かせ
まずは自分から話せる様、言葉を発する
事の方を優先させる事に決めた。


事あるごとに、
「どうしたいの？」
「どうしてそうしたいの？」
「どうしてそう思うの？」

我が子がどう思っているのか？
どうしてそう思っているのか？
を、何度も問いかけるようにした。
そしてその思いをきちんと聞いてあげる
事だけに集中した。

難聴の野球少年が、どうしてもキャッチ
ャーをやりたかった３つの理由
難聴の野球少年がどうしてもキャッチャーをやりたかった３つの理由


そして
「どのくらい、そう思うの？」

「少しだけ？」
「ふつう？」
「たくさん？」

気持ちにも大きさがある事を教えた。
何度も何度も聞き返した。我が子が
自分の気持ちをちゃんと伝えられる様
になるまで…







それから数年後

少年野球チームにも加入し、普通に野球
が出来ている事に違和感も感じなくなった。

ただ聴覚障害者が健常者の野球チームで
キャッチャーをやっている事に関して以外
のところは…


別にその少年野球のコーチが聴覚障害者
に対して偏見を持っていたり、聴覚障害者
に対して差別をしている訳ではない。

練習中、聴覚障害者の野球少年がコーチ
の指示を聞き取れていないと思えば、そ
の場で練習を止め、その少年が理解出来
る様になるまで、細かく説明してくれた。
他の少年の練習の邪魔になったとしても。

たとえ試合中であろうとも、わざわざ相手チ
ームの監督にまで頭を下げ、試合を中断し
難聴の野球少年のところへ足を運び、指示
を与えてくれた。


聴覚障害者と共に向き合い、聴覚障害者
と数年過ごして理解を深めたからこその
アドバイス

「お父さん、この先、彼が野球を続けてい
くのならばキャッチャーはあきらめさせた
方がいいよね。」

私自身、心の中ではそう思っていた。

その難聴の野球少年が信頼するコーチと
私の間で、真剣に話をしている事に、何か
ただならぬ事を感じたのか、その少年が
近寄ってきた。



そして、その難聴の野球少年が私にこう
問いかけてきた。

「パパ、いま、コーチとなにの
　おはなし、していたの？」

私はこう答えた。

「キャッチャーをやりたいなら
　もっとがんばらないとダメだよ。」

すると屈託のない笑顔で、彼はすぐに
こう答えた。



「パパ、だいじょうぶだよ。
　ぼくはいいっぱい
　たくさんがんばるから。」






キャッチャーミット片手に
両手いっぱい広げながら

そう答えた。











その言葉を背中越しに聴いたコーチは、

ミットを思いっきり叩き、

「パシーン!」


と、そこらじゅうに響き渡るほどの大き
な音を鳴らした。

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