2015年4月6日月曜日

❸産婦人科で大学病院への紹介状を手渡されたらこうなった…

茶封筒















『お子さんは先天性の難聴です』


そう言われた僕はただぼうぜんと

立ちつくすだけでした…



大学病院の先生から言われた言葉

『お子さんは先天性の難聴です』



頭の中で何度も何度も繰り返してみた

『お子さんは先天性の難聴です』







僕の人生で初めて大学病院の紹介状を手に
したのは僕の二人目の子供が産まれた後でした


まだどこかが悪いと決まった訳ではない

新生児スクリーニング検査で要検査
と言われただけ…

僕にも僕の子供にも明るい未来が待っている


ただの再検査だろう…?

日本の医療機器だって間違った判定を
する事もあるのだろう…?

大丈夫!!

ただの再検査だ

そう自分に言い聞かせて向かった大学病院



ただの再検査だろう…





そう心に何度も何度も言い聞かせながら
産婦人科の窓口で受け取った茶封筒を
大学病院の窓口に提出した

ただそれだけの事

受け取った茶封筒を指定された場所に出すだけ
それは僕の人生で何度も経験した事




ただ決定的に違うことはその茶封筒が
大学病院への紹介状だっただけ




生後間もなく退院すらできない赤ちゃんもいる

産婦人科を無事に退院出来ただけでも

『よしっ』としなければ…










子供が受けた検査内容とは…

血液検査

レントゲン撮影

脳波の測定


最初はそれだけでした


大人にとってはそれだけの事なのに
生後間もない赤ちゃんが受けるには
とても大変な検査でした…




生後間もない乳幼児の体調を優先して

出来るところまで検査しますと説明を受ける

体調を優先?乳幼児の体調って?

泣いたら終わりってことなのかな?

そんな事を考えていたら

『血液検査をしますのでパパとママは
 いったん外でお待ちください』と言われる




乳幼児の腕から血液を採取するのは
非常に困難だと言う事だけは聞かされた

産まれたばかりのわが子の小さな腕に

針をさされる姿を…

赤ちゃんの腕の血管を浮かび上がらせる為
場合によっては逆さづりになる事もあると
聞いた事はあるがどうなんだろう…

上手く血管が出て看護婦さんも
苦労しなければいいなぁ…

こんな小さな我が子に検査を受けさせなければ

いけない状況をつくってしまった親の責任…

待合室でいろいろな想いが頭の中を駆け巡った…





カーテンの向こうから聞こえる我が子の

『ギャー』という鳴き声…

いや叫び声…悲鳴…




我が子が採血のため頑張っているのだから
僕も耐えなければならない

今の僕にできる事は頑張れって応援する事
しか出来ないもどかしさ…








看護婦さんから

『なんとか採取できました』

やっぱり『なんとか』なんだ…





採血で体力を使った生後一週間の
我が子には休む間もなく

『次はレントゲン撮影です』

と指示された場所に向かう

少し薄暗い撮影室
『お父さんはそこで待っていて下さい』
中の様子がわからないまま
一人不安な気持ちで待つ

ママも一緒だから大丈夫だったのか
鳴き声は聞こえてこない

よかった…


ホッとしたのもつかの間
『最後は脳波の検査です』




『お子さんが眠ったら呼んでください』

そう言われて何時間が過ぎたか

我が子が眠るまで何時間待ったか
覚えていない

ただ朝一番で病院に着いてから
すでにお昼を回っていた


最後の脳波検査

健康診断で心電図検査の時に全身に
付ける様な器具を息子の頭に装着

赤ちゃんだから大人ほど
正しい数値がとれない事もあるらしい…



周囲の様々な音に反応する

脳波の測定












予定の全ての検査を終え


いよいよ先生の待つ診察室へ



先生が検査結果を見ながら
何かを言っていたのは覚えている




しかし何を言っていたのかは
今でも思い出せない





いや思い出したくない…



頭が真っ白になった感覚だけは
何となくあったような気がする…




そんな感覚の中でわずかに
記憶に残る先生の言葉が




『お子さんは先天性の難聴です





僕の人生でも初めて聞いた言葉

  先天性難聴?



隣で泣き崩れるママ…


周りからおめでとうって言われて
祝福され明るい未来に進んでいく

はずだったのに…



何故か
大学病院の診察室で立ち止まっている…



『先天性難聴』






自分の口から音にしてみる

『先天性難聴』






聞きなれない言葉

『先天性難聴』



悪い結果もある程度予想はしていた…

でも心のどこかで新生児スクリーニング検査
の要検査が間違っていたと思いたい

と思う部分もあった…


突きつけられた現実

500人に一人の確率で産まれる難聴児

今思うと失礼極まりないが
心の中で健康な二人の間に
障害児が産まれるなんて嘘だろう

って思っていた


先天性難聴の原因が妻のお腹の中に
いた時になんらかの要因が影響した
可能性があるという事で妻も簡易検査
を受けさせられた


でも後から知った事なんだけど

産まれた時に正常と言われる人と
異なった形状で産まれてくる状態を

『先天性』という事





先天性と告げられた時点で
まず正常ではないという診断

正常では無い=異常という診断

異常=障害者というレッテルを貼る

そんな事が頭の中をグルグル回る




聴覚障害者?

自分の子供が…

まさか…





そう頭の中で何度も何度も
自問自答しながら

僕の子供の先天性の原因を探る
必要性についても思考を巡らせた





先天性の原因を突き止める事が
自分の子供にとっては無駄な事に
思えてならなかった…

先天性と診断された時点でその原因が
分かった所でどうしようもないじゃないか


先天性なんだから…




先天性の原因を探るのは我が子のため
何か意味があるのか?

いや今さらその原因を知ったって元には
戻らないじゃないか?




だだ自分たちのためではなく
今後の医療の発展のためなのか?

原因を探ることは必要なんだ
という気持ちも芽生えた

医療の発展のため
今後同じような先天性の子供が
産まれて来ないよう原因を探る

我々も検査対象になる事の必要性に
納得せざるを得なかった…





必要ならば親のカウンセリングもあります
と説明されたが

僕たちがカウンセリングを受ける時間は
自分の子供のために使わなければいけない

そんな気持ちの方が強かった





補聴器についての知識もある日突然
本当に突然に必要になる


手話も覚えた方がいいな


実際に聴覚障害者を育てられている
親の話も聞きたい




世界が一気に変わった
僕も変わらなければいけない









だけど現実はひどかった…




何故?我が子が先天性難聴か?
を問い詰める時間があるなら



先天性難聴とどう向き合って生きるか?
を考える方がはるかに大事なのに…





あの時の僕と僕の妻の間では
あの時あんな事がなければと
お互いがお互いを責め合った




そしてなぜ我が子が先天性難聴に
ならなければいけないのか?
と悩む事に多くの時間を費やした




今考えればなんて身勝手でバカ
だったんだろうと思う…



診察室で聴覚障害児への親の接し方
より良い聞こえを求めるためのサポート
体制の説明を受けながら






真っ暗な深い闇の中にいた自分






その深い闇の中から立ち上がるのに
どれくらいの時間が必要なのか
その時の自分には知る余地も無かった

更に深い検査とサポート体制の整った
専門の大学病院の紹介状を受け取る

セカンドオピニオンも含め
始まった大学病院・国立病院巡りの旅


茶封筒から茶封筒へ


まだまだ長い旅は続きそうだ…





『お子さんは先天性の難聴です』




そう言われて最初に思った事は
子供と共に明るく生きていこうなんて
前向きな気持ちではなく

なんでこうなったんだ
誰のせいでこうなったんだ

そう犯人捜し・原因探しをする
後ろ向きな姿勢だけでした…

現実逃避
自己嫌悪
ネガティブな思考回路



産婦人科で大学病院への紹介状を
手渡された時はまだ大丈夫だろう
って楽天的な気持ちでいれたのに…









一気に地獄の底に落とされた

ような気持ちになった







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